重要判例解説(3);最高裁判所平成21年7月3日判決


1 事案
平成9年,建物所有者Aは,Y(被告・被控訴人・上告人)に本件建物を貸し渡し(期間20年,賃料月700万円及び消費税相当額35万円),保証金3億1500万円(11年後から10年かけて分割返還)と敷金1億3500万円を受け取った。
平成10年,AはBのために本件建物に本件抵当権を設定した。
平成11年,AはYとの間で,Aが他の債権者から強制執行や差し押さえを受けた場合には本件保証金返還について期限の利益を喪失する旨合意した。
平成18年2月,Aは本件建物について滞納処分による差押えを受け,本件保証金返還債務について期限の利益を喪失した。
同年5月,Bの申立てにより本件抵当権に基づく担保不動産収益執行開始決定(以下,「本件開始決定」)がなされ,X(原告・控訴人・被上告人)が管理人に選任された。
Yは,同年8月分から8か月分の賃料について各2分の1分(各367万5000円)を一部弁済として管理人Xに支払った(合計2940万円。以下,「本件弁済」)。
これを受けて,Xは,Yに対して,同年7月から9か月分の賃料などを求めて訴訟提起した。これに対し,Yは保証金返還残債権を自働債権,賃料残債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張した。
第1審(甲府地判平成18年12月20日)は,Yの保証金返還請求権と将来の賃料
債権との包括的相殺の主張を認めてX請求却下した。
原審(東京高判平成19年6月28日)は,平成18年7月分の賃料700万円及び8月分からの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2800万円の合計3500万円の
限度で請求を認容した。その理由は次のとおりである。本件保証金返還残債権はAに対するものであるが,本件賃料債権は本件開始決定後に生じたものなので管理人Xに帰属し,相殺適状にない。仮にそうでないとしても,相殺の意思表示の相手方は本件賃料債権について管理収益権を有するXのみであり,管理収益権を有しないAへの相殺の意思表示では相殺は効力を生じない。 

2 判旨
破棄自判。
「担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。」そうすると,開始決定の効力が生じた後も,担保不動産所有者Aは賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最判昭和40・7・20民集79号893頁参照),本件において,Aは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。
「被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。」本件において,YはAに対する本件保証金返還債権を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時点で自働債権であるYのAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるAのYに対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,Yは本件相殺をもって管理人Xに対抗することが出来るというべきである。
以上によれば,管理人Xの請求に係る平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅したことになる。

3 解説
本件は,不動産収益執行において,賃料を請求された賃借人が担保不動産所有者に対する債権を自働債権として主張した相殺の効力が争われた事案である。
そして,この点について判断をする上で,①賃料債権が不動産収益執行開始決定後も担保不動産所有者に帰属しており,②賃料債権等を受領債権とする相殺の意思表示の受領資格も失わず,③賃借人はこの相殺をもって担保不動産の管理人に対抗できるとの判断を示している。
これらは,①賃料債権は誰に帰属するのか,②賃料を請求された賃借人は,担保不動産の所有者に対して有する債権を自働債権とする相殺をするとき,誰に対して意思表示をすればよいのか,③その相殺の効力は担保不動産の管理人にも対抗できるのかといった問題点にそれぞれ対応しており,不動産担保収益執行の基本的な構造に関する複数の問題点について判断を示した判例だといえる。

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