重要判例解説(10);最高裁判所平成21年4月28日判決

1 事案
東京都足立区立の小学校に警備員として勤務していたY(被告・被控訴人=附帯控訴人・上告人)は,昭和53年8月14日,同校教諭Aを同小学校内で殺害し,同月16日までにはAの遺体をY宅床下に埋めて隠匿した。
Aの両親B・Cは,行方が分からなくなったAを心配したことから,警察に捜索願を提出し,校内やAが居住していたアパートの周辺を捜したが,成果は上がらなかった。
昭和57年,Bが死亡し,Cと弟X1X2(原告・控訴人=附帯被控訴人・被上告人。以下,二人あわせて「X1ら」という)が相続した。
Yは,A殺害後,自宅の周囲をブロック塀やアルミ製の目隠しで覆って外部から中を窺えないようにし,サーチライトや赤外線防犯カメラを設置して周囲を警戒する等,Aの遺体が発見されないよう措置を講じた。
しかし,その後,Y宅を含む土地が土地区画整理事業の施行地区となり,Yはその自宅の明け渡しを余儀なくされると,遺体発見を避けられないものと観念して,平成16年8月21日(殺害から約26年後),警察署に自首した。
Yの供述どおり,Y宅の床下から白骨死体が発見され,同年9月29日には,DNA鑑定により上記白骨死体がAのものであると確認された。このことを知ったC及びX1らは,Yに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した。
1審(東京地判平成18年9月26日)は,本件殺害行為による損害賠償請求権は民法724条後段の20年の除斥期間(起算点は本件殺害行為のあった昭和53年8月14日)の経過により消滅したとした。他方で,遺族が故人に対して有する敬愛・追慕の念を侵害したとして,死体隠匿行為をX1らに対する不法行為と構成した上で,これに関する除斥期間は遺体発見時だからまだ経過していないとして,慰謝料など合計330万円を容認した。
1審判決後の平成19年,Cが死亡し,その地位はX1らが相続した。
2審(東京高判平成20年1月31日)は,「不法行為により被害者が死亡し,不法
行為の時から20年を経過する前に相続人が確定しなかった場合において,その後相続人が確定し,当該相続人がその時から6か月以内に相続財産に係る被害者本人の取得すべき損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の包囲に照らし,上記相続財産に係る損害賠償請求権について同法724条後段の効果は生じないとするものと解するのが相当である」とした。
そして,本件では,DNA鑑定により,Y宅から発掘された白骨死体がAの遺体であることが確認された平成16年9月29日から3か月間の熟慮期間(民法915条1項・921条2号)が経過してその相続人が確定した時から6か月以内に本訴を提起しているから,上記特段の事情があり,Aが取得すべき損害賠償請求権は消滅しないとして,X1らに4255万円余を支払うよう命じた。
なお,遺体の隠匿を続けた行為についてはX1らへの独立の不法行為にならないが,遺体の遺棄行為はX1らへの独立の不法行為になるとした。ただ,その損害賠償請求権は,昭和53年8月15日から20年の除斥期間経過によって消滅しているとした。
 
2 判旨
上告棄却
ⅰ 「民法724条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり,不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には,裁判所は,当事者からの主張がなくても,除斥期間の経過により上記請求権が消滅したものと判断すべきである(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。」
ⅱ 「ところで,民法160条は,相続財産に関しては相続人が確定した時等から6か月を経過するまでの間は時効は完成しない旨を規定しているが,その趣旨は,相続人が確定しないことにより権利者が時効中断の機会を逸し,時効完成の不利益を受けることを防ぐことにあると解され,相続人が確定する前に時効期間が経過した場合にも,相続人が確定した時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない(最高裁昭和35年(オ)第348号同年9月2日第二小法廷判決・民集14巻11号2094頁参照)。そして,相続人が被相続人の死亡の事実を知らない場合は,同法915条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないから,相続人は確定しない。」
ⅲ 「これに対し,民法724条後段の規定を字義どおりに解すれば,不法行為により被害者が死亡したが,その相続人が被害者の死亡の事実を知らずに不法行為から20年が経過した場合は,相続人が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する機会がないまま,同請求権は除斥期間により消滅することとなる。しかしながら,被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま除斥期間が経過した場合にも,相続人は一切の権利行使をすることが許されず,相続人が確定しないことの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは,著しく正義・公平の理念に反する。このような場合に相続人を保護する必要があることは,前記の時効の場合と同様であり,その限度で民法724条後段の効果を制限することは,条理にもかなうというべきである(最高裁平成5年(オ)第708号同10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁参照)。」
ⅳ 「そうすると,被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」
本判決には,田原睦夫裁判官の,「民法724条後段の規定は,時効と解すべきであって,本件においては民法160条が直接適用される結果,X1らの請求は認容されるべきものと考える」との意見がある。

3 解説
本件判決は,民法724条後段の除斥期間について,例外的にその効果が生じない
場合を認めたものである。時効と違って中断等が認められない除斥期間について,そのままの運用では不都合が生じるとした例だといえる。
ただ,「被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出」したことなど,かなり限定的な状況下での判断であるから,その射程距離については慎重な検討が必要だと思われる。

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