重要判例解説(15);最高裁判所平成22年7月15日判決

1 事案
Z株式会社(補助参加人・上告補助参加人)は,傘下の子会社などをグループ企業とし,不動産賃貸斡旋のフランチャイズ事業等を展開する会社である。
Z社は,機動的なグループ経営を図り,持株会社となること等を内容とする事業再生計画を策定し,その一環で,A社をB社(Zの完全子会社)と合併することを計画した。
この計画に基づき,Z社の役付取締役全員によって構成された,Z社及びその傘下グループ各社の経営方針を協議する経営会議において,①B社を合併後も完全子会社とするためにはA社を完全子会社にする必要があること,②A社を完全子会社とする際には,可能な限り任意の合意による買取を行い,円滑な事業遂行を図ること,③その際の買取価格は払込金額である5万円が適当であることが協議され,1株当たり5万円でA株式を買うことが決定された(「本件決定」)。
その際に,Z社から助言を求められた弁護士は,重要な加盟店であるA社株主との関係を良好に保つ必要性に鑑みれば許容範囲内である旨の意見を述べた。
なお,Z社は監査法人など2社A・Z間株式交換に係る交換比率算定書の作成を依頼したが,同算定書によれば,A社1株当たりの株式評価額は9709円あるいは6561円ないし1万9090円とされていた。
Z社は,本件決定に基づいて,A株式を1株当たり5万円総額1億5800万円で買い取った(「本件取引」)。
その後,Z社・A社間で株式交換契約が締結され,A社の株式1株について,Z社の株式0,192株の割合で割り当て交付するものとされた(交換日直前のZ社の株式価格を基準に計算したA社株式の価値は8448円となる)
Z社株主であるXら(原告・控訴人・被上告人)は,本件決定に関与したZ社の代表取締役Y1並びに取締役Y2及びY3(被告・被控訴人・上告人)が,取締役としての善管注意義務に違反したとして,連帯して1億3004万320円の損害賠償をZ社にするよう求めて,株主代表訴訟を提起した。
第1審(東京地判平成19年12月4日)は請求を棄却したが,原審(東京高判平成20年10月29日)は請求を認容した。

2 判旨
破棄自判。
「本件取引は,A社をB社に合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるというZ社のグループの事業再編計画の一環として,A社をZ社の完全子会社とする目的で行われたものであるところ,このような事業再編計画の策定は,完全子会社とすることのメリットの評価を含め,将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして,この場合における株式取得の方法や価格についても,取締役において,株式の評価額のほか,取得の必要性,Z社の財務上の負担,株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ,その決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。
以上の見地からすると,Z社がA社の株式を任意の合意に基づいて買い取ることは,円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし,その買取価格についても,A社の設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば,払込金額である5万円を基準とすることには,一般的にみて相応の合理性がないわけではなく,Z社以外のA社の株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており,買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや,非上場株式であるA社の株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるA社の企業価値の増加も期待できたことからすれば,株式交換に備えて算定されたA社の株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても,買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。そして,本件決定に至る過程においては,Z社及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって,その決定過程にも,何ら不合理な点は見当たらない。
以上によれば,本件決定についてのYらの判断は,......著しく不合理なものということはできないから,Yらが,......善管注意義務に違反したということはできない。」

3 解説
本件判決が,A社株式の買取価格を1株当たり5万円とした決定が,善管注意義務違反となるか否かを検討している。そして,経営上の専門的判断が善管注意義務違反となるのは,様々な要素を総合考慮した上で,その決定の過程・内容に著しく不合理な点があるといえる場合に限るとした。なお,原審は,経営判断の原則(①前提となった事実の調査・認識に不注意な誤りがなかったか,②その事実の認識に基づいた意思決定の過程・内容が経営者として著しく不合理なものでないかの2段階で,善管注意義務違反の有無を判断するもの)」を採用しているが,本件判決ではこのような一般論は明示されてはいない。

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